南小国で放牧をする”気持ちよさ”とは? 農家パートナーの紹介(前田裕介)
●まずは自己紹介と、農家になろうと思った”きっかけ”についてお願いします
前田裕介(まえだゆうすけ)28歳です。出身は佐賀県の伊万里市です。現在、南小国で牛飼い農家を初めて、3年目になります。
今から9年前、東海大学に進学したことをきっかけに熊本にやって来ました。ある日、牛が山にいる風景を見て、「めちゃくちゃいいな!」って好きになって。それから「どうやったら放牧ができるのか?」について情報収集をしていくようになりました。そしたら、たまたま南小国の畜産関係者と会って、ここだったら自分が思い描いていた繁殖経営ができそうだと思い、連絡を取るところまではいきましたが
結局、最初は勉強も兼ねて人吉にある大規模農家のところへに就職をしました。
●大規模農家とは具体的にどんなところだったんですか?
黒毛和牛を一貫して繁殖から、肥育まで一貫してやっているところですね。自分は繁殖の牧場にいたんですが、母牛が4千頭と仔牛3千頭くらいで、計7千頭くらいいる牧場にいました。
そこで3年くらいは牛のことについて勉強をさせてもらうつもりだったんですが、農家の支援制度上、現場の年数が増えると支援を受けるのが難しくなります。なのでそこを1年ちょっとでやめて、南小国で国の支援制度を活用し研修を受けていました。
※繁殖:母牛を人工授精させて子牛を生ませ、その子牛を 8~9 ヶ月間飼養し、家畜市場等に出荷する 。
※肥育:家畜市場等から導入した肥育素牛を 20 ヶ月前後肥育し、と畜場へ出荷する
●改めて、南小国に来たいと思ったキッカケはなんだったんですか?
「山に牛がいる風景」で仕事をしたいと思っていました。放牧する風景を見て、それに関わることができれば、くらいだったんですけど、だんだんとのめり込んで行き、牛飼いを目指し始めました。
●放牧をすると決めたきっかけ、その魅力についてお聞かせいただけますか?
自分が南小国に来てから”気持ちいいな”と感じたのは、放牧はもちろんのことですが、牛が出す糞があるじゃないですか、それがちゃんと地域の中で使われているのが“気持ちいいな”って思って。
地元で牛が育ってる地域で、必ず出る糞を堆肥として使用して、米とかを育てていて、それで出来た稲や藁をまた牛に食べさせたりしていて、その循環に関わっていることが”気持ちいいな”って感じました。
そういうのって、阿蘇にある小さな農家しかできないことだと思うんですよね。自分が前にいた大きなところでは、餌も海外から買ってきて牛が食べて、そこから出た糞がまたどこか違うところで処理をされていたんです。仕方ないところもあるとは思うんですけども。
※牛の糞も大事な土の栄養分として、循環を形作っている南小国
●不自然さに対する違和感、自然な流れを自分が継承できている”気持ちよさ”ですね
そうですね。阿蘇以外でも、大津だったり他の地域で小さな農家ならできなくはないんですが、広大な草原があるっていうのが大きな魅力でしたね。
●なぜ「草原での放牧」が魅力的に感じたんですか?
放牧をすることで、飼料を買うコストをある程度賄えるということ、餌代の負担も減るというのは大きいですが、草原に牛が居る風景を見ると、心が浄化されるんですよね。
●放牧をして良かったことは?
自分の中で嬉しかったのは”誇り”になったことですね。
友達とかに自分がやっていることは「この景色を守る仕事をしているんだ」って話していく中で自信にもなってきました。放牧の風景を見て、不快に思う人って誰もいないと思うんですよ。草原を見ていると、みんな目がキラキラするっていうか。
●今、飼ってる牛は具体的に何頭いるんですか?
親牛が7頭、仔牛が3頭、肥育中が1頭、計11頭ですね。去年は仔牛で出荷が3頭、肥育で出荷が1頭ですね
去年が初めての出荷でした。それまでの期間は準備期間でしたね。
●送り出してみてどうだったでしょうか?
どんな気持ちになるかわからなかったんですが、出荷されて、肉になったのをみて最初は「こんな感じなんだ」って一番自分の中で実感を持てたのはイベント出展をして試食会で食べてもらっている顔を見たときに出荷されたんだって強く実感できました。実際に屠畜される現場を見るわけではないので。
●一番あった気持ちの変化は?
今まではただ作って、売れればいいやと思っていましたがもう一つ必要だと思ったことがあって、それは「知ってもらうこと」が必要だなっと思っていて、ただ出すだけではもったいないなと。SDGsにもある「作る責任」という捉え方ができるようになりたいと感じていて、作るからにはこの牛がどういうお肉で、この地域でどのように育ってきて、この地域で活かされてきた牛なのかを知ってもらうのは絶対に必要だと思っていて、それが生産者の役割だと強く感じました。
まだ足りないと思うんですけど。(笑)
●放牧をすることでの影響ってどんなところがあると感じますか?
自分が感じるのは、脂身が美味しいって感じました。
元々、焼肉店のアルバイトを経験していた時に、いくつか霜降り肉を食べたことがあったんです。その中でも断然、放牧させた牛の脂身は美味しいと感じました。
●今後どんなことをしていきたいですか?
今後は放牧を活用して、牛を飼っていきたいという思いが一番強いです。今は自分が所属している牧野組合で放牧をさせていただいてる部分もあるんですが、自分で放牧地を作りたいと思っています。普通だと放牧する時は妊娠してからまだ日が浅い牛を出すんです。5月から12月まで大体放牧期間があって、出産、1ヶ月前の牛を連れて帰ってきて、分娩の準備をするんですよ。出産後、3ヶ月間は仔牛と一緒にしてまた、山に出すんですが、牛舎にいる期間も自分の山の裏で放牧できたらいいなって思ってます。
分娩の直前まで自然な状態で過ごしてもらえる、草原を活用できる環境を作っていきたいです。
●それをするための課題は何がありますか?
3年くらい前から地元の牛飼いの方から牛舎を借りながらしているんですが、去年から新しく土地を借りたんですよ。そこにビニールハウスの牛舎を建てて、その裏にうちの地区の自治会の場所があるんです。
やりたいならそこを放牧地にしていいと言われてます。ですが、水がないんですよ。。。草原のあるところは中腹地が多くて。なので、難しい話ではないんですが、ちゃんと水を溜めれるようにして、ポンプアップして水を運べるようにできれば可能なんです。イメージは湧くんですけど、色々な人に助けてもらわないとですね。(笑)
●これからの活動が楽しみですね!この記事を読んでくれた方に何か一言お願いします!
「これからも現状に満足せず、地域のためにも、自分のためにもやっていきたいです!」